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ランニングと寿命

まえおき
    このページは、医学の領域の話題を含んでいます。 また、病気や人の死に関する話題を多く取り上げています。
    ご承知のように、どのような研究、調査、論文も100%の真実を 語っているわけではありません。 このページの文章は、そのような既存の研究データのうち、 dicdicがランニングについて調査する過程で目に留まったものからいくつかをピックアップし、 再構成する中で、筆者が想起した考えや結論を述べています。 そしてこれらの考えや結論もまた、100%の真実を語っているものではなく、また読者に対して、 考え方や行動の変更を何ら強要するものではありません。 しかしながらページ内容には、一定の意見・見解・調査結果を支持する主張を含んでおり、 したがって、一定のバイアスがかかっていることにご留意願います。
    私は医者ではありません。 また研究者でもありませんので、 取り上げた文献に対するあからさまな反対意見や質問は受け付けることはできないことを ご承知おきください。
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 ◆ タブーなテーマ? ◆
   ランニングが人間のカラダや心に及ぼす作用や効能については、不明な部分が多く残されています。 走っている人たちの中にも、最初は何かの効果を期待して始めてみたものの、効果があったのかなかったのか よくわからないままに続けている人が多いのではないでしょうか? 私は最初、減量を目的として走りました。 効果は絶大で、30kg以上の減量に成功しましたが、 目的を達した後も、なぜか走り続けています。

   RUNNETが2014年に市民ランナーを対象に行った意識調査 (※1) では、 走り続ける理由に「健康でいるため」を挙げる人がもっとも多く、 これは聞いた側にも納得のいくものです。
   しかし、健康でいられるというのは本当なのでしょうか?  「走っていれば健康に良いのは当たり前」という程度の認識では、これらの効果が得られるばかりか、 逆効果になっているかも知れません。

   私の学生時代の友人の一人が23歳の若さで突然死しました。 大学を卒業後、 警察学校に通い始めてわずか半年後、睡眠中の心臓発作で亡くなったのです。 彼は痩せ型のスポーツマンで、警察学校に入ってからは毎日体力づくりのための過酷なメニューをこなしていたようです。
   ソウルオリンピックで100mと200mの世界記録を出した フローレンス=ジョイナー選手は、38歳の若さで 心臓発作で亡くなっています。
   1980年代のアメリカにジョギング健康ブームを起こし、 ジョギングの神様と言われた ジム=フィックスは58歳の時、ジョギング中に 心筋梗塞で亡くなりました。
   こうした例は、「走る」という行為によって心臓に負荷がかかり、 健康を増進するどころか、かえって寿命を縮めているのではないかという疑惑を生じさせます。

   こうしたテーマを、ランニング愛好家のホームページで扱うことは、一種のタブーのようにも 思われますが、我々が走り続ける限り消すことのできないこの疑惑について、敢えて自分のためにも考えてみたいと思います。


 ◆ スポーツ中の突然死では、「ランニング中」 がダントツのトップ ◆
   東京都の監察医務院が1984〜92年の9年間のスポーツ中の突然死をした学生を調査 (※2) したデータが あります。 調査対象は小学校から大学生約2,200万人
   対象となったスポーツ中の突然死305例のうち、約42%にあたる128人がランニング中の突然死であり、 続いて多いのが水泳の42人(13.8%)でした。

   さらに、ランニング中に突然死した128人中、約95%にあたる121人は、 心臓の異変(急性心筋梗塞)による死亡でした。
   しかしこの研究では、ひとくちに「ランニング中」といっても、持久走なのか、短距離走なのか、 マラソン大会なのか、いまひとつはっきりしません。 「走る」にもいろいろあるからです。

   市民ランナーには「自己流」の人が多いとよく言われます。 初心者でも低予算で、 特別な施設も指導者もつけることなく始めることができてしまうので、自己流のフォーム自己流の距離設定自己流の目標タイムが生まれてしまうわけですが、こうした設定で たまたま長期継続ができてしまった場合、実は、自分でも判らないうちに自分の心臓を苦しめているかもしれません。 そしてこれが長年続けば、ある日突然、心臓の耐久力が破綻するかもしれないのです。

   『自己流』と言われて内心グサッとくる人は、 「しかしそもそも、走ることは健康に良いハズでは?」という疑問が頭に浮かぶと思います。 しかし近年、走れば何でも良いというわけではなく、走り方によっては運動不足の人よりも寿命を縮め肥満やヘビースモーカーが起こしやすい疾患と同じ病気で亡くなるリスクが急増することが、 医学やスポーツ医療の分野の研究者から多数指摘されています。 しかしこれらの研究成果は、保守的な研究者や、「走ることは健康に良い」という強固な神話に取り憑かれている 愛好家たちにとって、なかなかすんなりとは受け入れがたいものかもしれません。。

 ◆ 1992〜2011年8月の国内マラソン大会の統計 ◆
   「ランニングと突然死」、「ランニングと寿命」 についてのエビデンスをweb上で探し回っても、 伝え聞きや、明らかに受け売りのコピペだろうという記事が多く、ソースとなる論文になかなか辿り着けないことが多いのですが、 日本語で解りやすくまとめられたものに、東京マラソンのサイト (※3) があります。
   ここでは1992年から20年間の国内マラソン大会での突然死についてのデータが紹介されています。
 @1992〜2011年8月のマラソン大会中の突然死は、127例に及ぶ (母数は明記されていません)
 Aマラソン大会中の突然死は、年々増える傾向

 Bマラソン大会中の突然死は、50歳代が最も多い

 Cマラソン大会中の突然死は、21km以降が85%と、後半に集中している


 ◆ 大会参加者10,900,000人を対象にした調査 (米国)
   突然死についての統計は海外にもあります。 上のデータでは調査母数が不明でしたが、 下に挙げるアメリカの「レース中の心停止に関する研究グループ」の調査によるデータ (※4) では、 参加人数の総計が一千万人以上(10.9million) にもなる調査から、ランナー10万人に対する心停止の割合を算出しています。
   その結果からは、突然死はやはりハーフよりもフルで、女性よりも男性で起きやすいことが判りました。
   ハーフよりもフルで多く起きることや、近年増加していることは※3のデータの傾向と同じですが、 この調査で際立っているのは、「男性の突然死は女性の5倍も多い」 という点です。 男性と女性では、心臓に何か器質的な違いがあるのでしょうか。 あるいは、スピードや運動強度を制御できず 無理してしまうような、何らかの心理的な働きによるものなのでしょうか....。


   さて、※4の結果によると、 突然死の確率は男性でも10万人に1人未満ですから、 絶対に死なないとは言い切れないにしても、さほどビクつく数字でもないように思われます。
   突然死についてはそれほど恐れる必要はないとして、寿命に響くようなカラだの故障が引き起こされることは ないのでしょうか?  次はその点について見ていきます。


 ◆ 心臓に対する長期的な影響 ◆
   アメリカのセント・ルークス病院 (日本でいう聖路加病院?) のJ.H.O'Keefe博士は、 持久系運動が心臓に与える影響について報告 (※5) しています。
   O'Keefe博士は、持久系運動は死亡率の低下につながるとされてきた従来の研究と矛盾してしまい、 まだ仮説の段階に過ぎないとしながらも、短期的には右心室の急性容量過負荷が起きやすく、 長期にわたって運動を繰り返せば、斑状心筋線維症や冠動脈石灰化、拡張機能障害、大動脈硬化が 慢性化するだろうと指摘しました。


 ◆ U字カーブ ◆
   ※5の報告に示されたように、走ることによって心臓に器質的な変化を生じるのであれば、 それがランナーの寿命に影響を及ぼすかもしれません。 ランナーの寿命の統計と、それぞれのランナーが どのようなランニングライフを送っていたかを示すデータがあれば、どのような走り方が寿命に影響するかが判るかもしれません。
   そこでJ.H.O'Keefe博士は、別の研究 (※6) で、 14,000人のランナーと42,000人の走ってない人とを3年間調査した結果を引用した考察を書いています。 (引用元については文献を更に辿ってください)

   更に、調査対象者のランニングライフのスタイルの統計から、週当たりの最適な走行距離 を探る分析をしたところ、下のようになりました。 (1mile=1.61kmとして換算して丸め)

   走らない人が、運動しないことによって寿命を縮めている危険度を1.0とし、それを基準として 週間走行距離ごとに寿命を縮める危険度を表現しています。 週間40km以上走ってしまう人は、走らない人と大して変わらない危険度になっています。 一方、週間16〜24km程度の範囲内で走る人は、走らない人よりも寿命を縮める危険度を 25%以上押し下げています。

   このグラフ、アルファベットのUの字型になってますよね。 このように、 『やらないよりはやった方が良い、でもやりすぎはダメ』 という事柄を 示したグラフをU字カーブといい、今回の結果もほぼそれに乗った格好です。 ほどほどに、中庸に、ということでしょうか。 ちなみにこのU字の底を、 この報告の中で博士は 『スィートスポット』 と表現しています。

   このように、「走ることは健康に良く、寿命を延ばす」 と言われながらも、矛盾した例が 多くみられることの背後には、「やりすぎは全くの逆効果」 というトラップが潜んでいるのかも知れません。 走り方によって全然違うという点に着目した研究はまだ始まったばかりです。 今後新たな調査結果が続々と発表されるでしょう。


 ◆ 努力をあきらめる ◆
   こうなると、プロの選手は命がけで走っているということになります。 しかし彼らは、 筋力の向上や心肺能力の向上を考えた栄養・運動メニュー・訓練環境、スポーツ医療のサポート等々、 総合的なプランの中でやっている人たちです。 そのぶん心臓も強くなり、リスクは後退していると 考えられます。

   大概、ランニングにはまってしまう人というのは、凝り性で、物事をとことん突き詰めるまで 頑張ってしまう人ではないでしょうか。 まさに、無意識のうちに 「極める」 ところまで突き進んでしまうのです。 そんな突き詰めが、
   減量減量の成功ハーフ完走フル完走大会出場サブスリー →・・・・・
という具合に階段を次々と登っていき、ついには鉄人みたいになっちゃって、 トライアスロンとか ウルトラなどの方向へと進んでいくのは想像できます。

   一方、私は慎重でした。 私の家は心臓病家系で、祖母は狭心症で亡くなっています。 私自身もかつては肥満で、不整脈がありました。 ランニングを続けるうちに体重が減り、息切れも少なくなり、 不整脈の出現が普通の人よりもずっと少なくなりましたが、そうして突き進んでいく中で、 走ると胸が痛くなることがありました。 結果的にその痛みは 肋間神経痛でしたが、そのころから、「やり過ぎは良くないかも」 と考えるようになってきました。 仕事の都合でランニングから1年ほど離れた時期にはパニック障害を発症し、胸の痛みと死の恐怖を 同時に味わうという経験もしました。 その後3年以上してから再びランニングをはじめましたが、 パニック障害発症者の多くは僧帽弁閉鎖不全症を持っているという 論文を読み、ますます慎重になりました。 聴診の結果、弁に異常がないことが判りましたが、 走ることと心臓の異常は隣り合わせであるということを 常に念頭に置いています。 また一方で私は貧血気味であり、無理なラストスパートやダッシュをすると 気が遠くなります。 こうしたことから、私はスピードを抑え、 週一度の20kmランニングでは、最初の5kmは鼻呼吸だけで走る ことを最優先にしています。 その後徐々に強度を上げ、10km前後のところまでには、 何も考えなくても脚は勝手に動き、苦しくない呼吸が自動的に継続している という状態に持っていきます。 そうなると、「永遠に走ってられそう」 なくらいにラクになり、実に爽快な気分で走りきれます。 口を開けて息をしなければならなくなったら走るのをやめ、 歩きながら呼吸を整えます。 そのようにすると楽に走れる距離がぐっと伸びます。 更にその方が、 速度を速める場合よりもはるかに減量効果があることも経験上把握しています。 実際の閾値(LT)はもっと上にあることは認識していますが、この習慣は続けていこうと思っています。

   手賀沼などを走っていると、 Tシャツ全体の色がすっかり変わりきるほどの汗をかいて、 舌が出るほど口を開き苦悶の表情で 走っているようなランナーに出会うことがあります。 北柏橋や曙橋近辺でゴールした瞬間に倒れこんで、 地ベタでゼィゼィしている人なども、見ていて恐いです。 「あの人はこのままランニングを何年も続けることができるだろうか」 とか、 「あの人の心臓は悲鳴を上げてないだろうか」 などと心配になるのです。 ランナーの中には、そんな苦しさの中に身を置くことに一種の快感や達成感を感じる人もいると思います。 (それは解ります。 わたしもそうでしたから....) しかし、 なんでもかんでも 「苦しい=走力の更新」 を意味するわけではありません。 自分のLT、VT、HRTを知っていて、それに応じて管理されたメニューをこなすならまだしも、 トレッドミルもやったことのない人がやみくもに苦しさに身を投じることは危険だと思います。
   働きながら時間を見つけて走っている市民ランナーが、やれ乳酸閾値だ、やれインターバルだ、 やれ心拍数だと、妙なこだわりを見せてみても、所詮、月間走行距離が1000kmを超えるようなマラソン選手とは まったく違う次元でマネゴトをして自己満足しているだけだと考えたほうが良いでしょう。
   頑張りを継続している自分に自己満足、追い抜かしている自分は優越感、 風を切っている自分に自己陶酔・・・・。  しかしそうした満足に浸るたびに、死期がまた一歩近づいてきている かも知れません。
   もちろん、生まれ持った体質や、若いころからずっと運動を続けていて耐性がついている人もいます。 危険なのは、前提となる条件が全く違うそうした人たちと同じことをやろうとする無謀さにあります。 自分自身のスィートスポットを見つけ、その範囲で楽しむことを目標にしていきましょう。

Reference:

※1
 「R-biesランナー世論調査2014」(RUNNET)
  Q11.ランニングを続ける理由TOP10
 https://runnet.jp/project/enquete/2014/result/11.html

※2
 「学生のランニング中の突然死の実態」(2013.5.24 第9回心臓性急死研究会)
  畔柳三省, 熊谷哲雄, 松尾義裕, 小島原将直, 徳留省悟 (東京都監察医務院)
 https://www.jstage.jst.go.jp/article/shinzo1969/29/Supplement5/29_15/_article

※3
 「マラソンと突然死」(東京マラソン2012 救急医療情報)
  喜熨斗(きのし)智也 (救急救命士)
 http://www.tokyo42195.org/marathonman2012/firstaid_bn02.html

※4
 「Cardiac Arrest during Long-Distance Running Races」(2012.1)
  Jonathan H.Kim, Rajeev Malhotra, George Chiampas,
  Pierre d'Hemecourt, Chris Troyanos, John Cianca,
  Rex N.Smith, Thomas J.Wang, William O.Roberts,
  Paul D.Thompson, Aaron L.Baggish
   (Race Associated Cardiac Arrest Event Registry Study Group)
 http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1106468?query=featured_home#t=abstract
 pdf: http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa1106468
 DOI: http://dx.doi.org/10.1056/NEJMoa1106468

※5
 「Potential Adverse Cardiovascular Effects From Excessive Endurance Exercise」(2012.11)
  James H.O'Keefe, Harshal R.Patil, Anthony Magalski
   (Saint Luke's Health System)
  Carl J.Lavie
   (John Ochsner Heart and Vascular Institute)
  Robert A.Vogel
   (University of Maryland)
  Peter A.McCullough
   (Providence Heart Institute (St.John Providence Health System))
 http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0025619612004739
 pdf: http://extremelongevity.net/wp-content/uploads/MCP-Jun12-OKeefe.pdf
 DOI: http://dx.doi.org/10.1016/j.mayocp.2012.04.005

※6
 「Run for your life … at a comfortable speed and not too far」
  James H.O'Keefe (Saint Luke's Health System)
  Carl J.Lavie (John Ochsner Heart and Vascular Institute)
 http://heart.bmj.com/content/99/8/516.extract
 pdf: http://indorgs.virginia.edu/MuscleClub/OKeefe_JH_article1%2B2.pdf
 DOI: http://dx.doi.org/10.1136/heartjnl-2012-302886
 動画: https://www.youtube.com/watch?v=Y6U728AZnV0


上記の他、参考となるであろう資料を挙げておきます。 ※リンク切れの際はご容赦下さい
 「スポーツと突然死」 (スポーツ医学.JP)
 http://www.spomed.jp/health02.htm

 「学校における突然死予防必携」 (日本スポーツ振興センター)
 http://www.jpnsport.go.jp/anzen/anzen_school/taisaku/sudden/tabid/228/Default.aspx

 「運動中における突然死(心臓系)の事故防止について」 (日本スポーツ振興センター)
 http://www.jpnsport.go.jp/anzen/Portals/0/anzen/branch/nagoya/pdf/totsuzenshiall.pdf

 「東京マラソンを契機に「突然死」の再認識を」 (AllAbout)
 http://allabout.co.jp/gm/gc/213812/



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