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残遺症状

−     パニック障害の最難関     −


◆ 残遺症状とは? ◆
    残遺症状とは、薬による治療で発作の回数と重度が軽減されてきた頃にやってくる、深刻な心身の不調です。 多くは、発作が落ち着いてから数カ月後に突如症状が発現し、長期間続きます。 残遺症状は患者にとって非常に深刻なものであるにも かかわらず、書物でもあまり触れられることがなく、今日でも知らない医師もいるほど、見過ごされがちな症状です。 しかし患者にとってしてみれば、パニック発作はほとんどおさまっているのに、また薬もちゃんと飲み続けているのにもかかわらず 発生するため、パニック障害とは別の、生命に関わる大病を患ったのではないかと混乱し、そのままうつ状態になってしまうことが多いのです。 患者によっては、残遺症状を経験すると、「パニック障害」であるというそもそもの診断が間違っていたのではないかという疑惑を生じ、医師との信頼関係を 損ねてしまうきっかけにもなりかねません。 
    残遺症状という現象そのものは、古くから知られおり、「非発作性愁訴」などと呼ばれ言及がなされることは ありましたが、実際には、パニック発作にばかり焦点が当てられがちなのが現実です。 パニック障害についての解説本や論文では、パニック発作の症状や時間帯、 起こった状況や対処法、治療法についての議論が盛んですが、残遺症状についての研究はほとんど進んでいないように思われます。 私がここ数年、本屋さんで パニック障害の本を片っ端から立ち読みしまくった感触では、2013年以降に発刊されたもの辺りから、ようやく残遺症状について正確な記述がなされるようになってきた と思います。しかしその残遺症状の恐怖や深刻さについては、まだまだ認識の浸透が進んでいないと言えるでしょう。


◆ 発作と何が違うのか ◆
    残遺症状は、パニック発作と似ている感じもしますが、まったく別の病状であるとも感じられます。

パニック発作と残遺症状の比較
■パニック発作
   2週間程度の服薬により容易にコントロールできる
   発生から10分程度で症状が極大になり、1時間以内にほぼ収束
   このまま死ぬのではないかと恐怖する
   発作でないときは予期不安がつきまとう
   動悸亢進、手足の痺れや震え、胸痛などの一時的で劇的な身体症状
   発作時以外は普通に生活できる
   発作時以外は普通に入眠できる
   心理的に不安定になりがち

■残遺症状
   服薬開始により発作が起きなくなってから数ヵ月後に発生する
   数日かけて次第に症状が重症化し、慢性的な不調へ
   死に至る病により近日中に必ず死ぬと確信する
   漠然とした大きな不安が常時つきまとう
   筋肉痛、神経痛などの長期的で漫然とした身体症状
   常に痛みと不安に怯え、生活に支障をきたす
   睡眠中の突然死を恐れて入眠できない
   心身ともに疲労困憊し、完全なうつ状態

    パニック発作の症状はとても特徴的なので、発作の発生に対しては、ある程度身構えることができます。 発作が発生しても、 「あっ、またきた!」という風に、苦しいけど心配ないことなのだと自分に言い聞かせることができます。 また症状の特徴も、さまざまな解説書に書かれている通りで、 これは一時的な発作なのだと自分を励ますことで乗り切ることができます。 せいぜい長くても1時間です。     しかし残遺症状は違います。 「これが残遺症状です」 といえるような特徴的な症状がないのです。 というのは、個人差のみならず、発生するたびに痛む場所が変わったり、気が付くと痛む部位が移動してたりするのです。 ある意味で怪奇現象に近く、痛みを味わっている本人としてはとても恐ろしいものです。 しかもこれが 一時的でなく、ほぼ丸一日中続くのです。 そしてそんな日々が何日も何日も続きます。
    残遺症状のもっとも恐ろしいのところは、痛みや不安が慢性的なものになり、常時苛まれ、心身ともに 疲労困憊してしまう点です。 音楽を聴いても、楽しいテレビを見ても、家族といても、親友と会話しても、不安な心が楽しさや安らぎを はるかに圧倒してしまうのです。 結果的に、心理的に萎縮し、活動が限られ、集中力が減退し、仕事のパフォーマンスが下がります。 QOL(=人生の質)は著しく下がり、その張り詰めた心理状態が、まったく別の病気の原因になってしまうかもしれません。
    では、いったい 「何が」 不安なのか? 実は、これは本人にもはっきりと意識されないのですが、自分の人生全体が恐怖の雲に包まれて しまっているような不安です。 私の場合、具体的には 「死の不安」 と、それにつきまとわれて今を生きなければならないことに対する 「生の不安」 でした。


◆ 私の場合 ◆
    症状の経過のページにも書きましたが、私の場合、最初の残遺症状はジェイゾロフトを服薬によって発作がほとんど起こらなくなってから 3ヵ月後に起こりました。 一般的も、そのような経過をたどるようです。 つまり、薬によって発作はほぼおさまり、すっかり元の生活に すっかり戻って安心しきっているような頃に起こるのです。
    私の場合、身体症状として、まず酷い肩こりから始まりました。 しかし私にとってこれは慣れたことで、 不快ではあっても、気にならない程度でした。 しかし、この不快感は数日のうちに左腕に広がりました。 それは、あまり経験のないことだったので 「気持ち悪いなぁ」 という程度。 しかしこの左腕がさらに数日後に次第にピリピリと痺れ始めたのです。 腕が痺れるといえば、発作と近い症状です。 「軽い発作かな...」 みたいに思っていましたが、その後全身がだるくなり、血圧が極端に下がった みたいにフラフラし始めました。 仕事中にトイレに行くことすら億劫になり、ついには胸痛を 自覚するようになりました。
    ここでいよいよ 「これは軽い発作なんてもんじゃない!」 と思うようになります。 パニック発作というものは、 多くの書籍にも書かれているように、突然襲ってきて、数十分以内におさまるものなのです。 このように長時間、慢性的な症状が続くということは、 何か別の病気なのではないかと疑うようになりました。 そしてその日のうちに、その疑いは、パニック発作も含め、そもそもの診断が間違っていたのではないか という疑惑に発展しました。 胸痛や背中の痛み、肩や腕の痛みは心臓病でも発生することがあります。 そんな、余計な予備知識もあって、 自分は心臓の病気に違いないと確信してしまったのです。 
    その日の仕事の帰りの電車内、
「あぁ(悲)!、僕はやっぱり心臓の病気なんだ!  すぐに先生にこの症状を説明して、治療を切り替えてもらわないと!」
と考えていました。 今にも倒れそうになりながら電車に乗り、乗り換えの駅で目の前が真っ白になり座りこみました。 そのまま病院に行き、 パニックの症状に違いないと言い張る先生の言葉に絶望するものの、初めて処方されたトリプタノールという薬によって、 翌日の夕方にはほぼ寛解しました。

    その後も残遺症状はたびたび現れました。 しかし、上述のような酷いものではなく、違和感を伴ったちょっとした疲労感、軽い離人感、 軽い胸痛、軽い背中の痛みといった形でいつのまにか現れ、気が付かないうちに消えていきました。 しかし強い疲労大きな緊張に見舞われたときは、「これぞ残遺症状」 という感じのつらい症状に襲われました。

    次に決定的な残遺症状が現れたのは、ジェイゾロフト断薬後約半年後のことでした。 私はジェイゾロフトを断薬したことで、パニック障害をすっかり卒業した気でいましたので、「今度こそ心臓だ!」 となり、Sクリニックとは別の大病院で 心臓と血管を調べるも異常なし、 「ならば脳か!」 となりMRIを撮るも、医者に「こんな綺麗な脳味噌は見たことがありません」 と 言われ、すごすごと病院をあとにしました。 私はそこではじめて、これは残遺症状なのだと確信できたのです。



◆ 「うつ」 と 「痛み」 ◆
    私のように何度も残遺症状を経験していても、「今度こそ死の病だ」 と勘違いしてしまうのは、残遺症状は現れる度に不調を感じる部位や 痛みの感覚がかなり異なっているためです。 1度目の残遺症状では胸痛や腕の痛み、2度目は異常なだるさ、3度目ではしぶとい背中の痛みと胸痛を経験しました。 ただ一貫しているのは、どれも死の不安があったということです。 「僕が死んだら、娘は、妻は....」 と思い煩い、 気がつくとうつ状態になっています。こうなると、「これは残遺症状なのではないか」 とウスウス思いつつも、死の不安と病気であるという思い込みが先行し、 大病院受診となるのです。 結局、3度目の強い残遺症状の時、Sクリニックの先生と相談し、いったん断薬したジェイゾロフトの服薬を再開することにしました。 悔しかったですが、前回の断薬が早すぎたという反省のもと、服薬を真面目に継続することにしました。 同時に、 うつによって発生する痛みを和らげるために追加の薬を処方されました。

    私に現れる残遺症状の特徴は以下のようなものです。
         兆候期  体の一部の不快感、だるさ
          ↓
         進行期  体の一部の痛みと強いだるさを伴う軽いうつ状態
          ↓
         慢性期  体の一部の頑固な痛みと死の不安を伴う強いうつ状態

このように、「うつ」 と 「痛み」が並存するため、「痛み」を除去する必要もあります。 「痛み」が続く限り、「うつ」 を解消することは困難だからです。
    「うつに伴う痛み」 の除去には、サインバルタなどのSNRIを服用するのが一般的です。 しかしパニック障害に効くのはSSRIである ジェイゾロフトであるため、私の場合は痛みが軽減するまでの間、ジェイゾロフトとサインバルタの両方を服用しました。 実際は、サインバルタの副作用である 傾眠が強かったため、サインバルタは2日に一度の服薬を約2週間続け、その後はジェイゾロフト1本に絞りました。 私の場合、その程度の軽いものだったのです。

    ここで、私の中で発生した素朴な疑問は、「『うつ』 が先か 『痛み』 が先か」ということです。  経験的には、痛みのほうが先のように 感じられますが、確信がありません。 「痛み」 に対して極度に敏感になってしまっているということは、意識はしていなくとも脳内では 「生理的なうつ」 状態が 始まっているとも思えるからです。 脳内ホルモンのアンバランスが痛みの感覚の伝達に不具合を起こすことは知られていますが、 では 「何故その場所が痛むのか」 まではわかりません。 この理由のはっきりしない、漠とした痛みが余計に不安な気持ちを駆り立てるのです。

    余談ですが、塩野義製薬が「うつに伴う痛み」のCMでバッシングを浴びるという出来事がありました。 「うつ=痛む」という固定概念が 生まれてしまうという批判でしたが、「うつに伴う痛み」 というものが確かに存在するという現実もまた知ってもらいたいというのが、 患者の本心なのではないかと 思います。



◆ もっと残遺症状についての認識を ◆
    残遺症状は、@薬を服用しているにもかかわらず、A発作がおさまってから数ヵ月後に B不意にやってきて、 C慢性的なうつ状態(死の不安)と D頑固な痛みを伴う E大変辛い状態 です。
    多くの場合、それがパニック障害に伴う症状だと判らずに、ひたすら怯え、まったく別の病気だと勘違いしてしまう点が厄介です。 うつ状態に痛みが伴うということを知らずに、かかりつけの心療内科の先生にもこのことを告げず別の病院を行脚しているうちに ますます悪化してしまうということはよくあると思います。 書店などで見られるパニック障害関連の書籍では、 パニック発作の劇的な症状ばかりが強調され、残遺症状についてはほとんどまったくといってよいほど触れられることがありません。 ということは、医師や専門家の間でも、残遺症状についての知識が乏しいのではないかと思われます。残遺症状そのものの研究には時間がかかるとしても、 患者自身が 「発作が落ち着いた先には、残遺症状という慢性的な症状が起こりうるものなのだ」 ということを よく認識しておくことは大変重要だと思います。




    ≪ まとめ ≫
  ■ 残遺症状は、パニック障害の最難関である。
  ■ 残遺症状は、パニック発作が沈静化し安心し始めたころ、薬を飲み続けているにもかかわらず発生する。
  ■ 残遺症状は、生理学的に説明がつきにくい痛みを伴うことがある。
  ■ 残遺症状はQOLの低下に直結している。
  ■ 医師などもパニック発作にばかり目を奪われ、残遺症状に対する認識が浅い。




                

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