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放射性物質(放射能)は解毒できません!

 私の専攻は化学工学であり、核化学については一通りの キホンしか修めていない。しかし最近、知人から 放射能対策について聞かれることが多く、 ちょっと話してみると、トンデモな除去法や解毒法を 信じ込んでいる人がいるみたいなので、警告として、 すこしクドクドと書いておきます。

 「放射能を解毒」という言葉をよく目にする。 もとより私は研究職ではないが、理系の立場から 言わせてもらうと、この「解毒」という言葉には 違和感を感じざるをえない。

 結論から言うと、 放射性物質(放射能)の解毒はできない。 それは除去するしかない。

現代の科学の力ではできない、というのではない。  「放射能(放射性物質)というものの造りから考えて、  そのようなことは不可能。」 というのが正確だろう。

 中学校の理科の授業では「変化」ということについて、 2つのキーワードで教えられる。

 1.物理変化(変形、状態変化)
 2.化学変化(化学反応)

 我々が「解毒」という言葉を使うとき、それは、 化学変化(化合・分解)によって、有毒なものを 無毒化することを意味する。

 しかし、放射性物質は無毒化できない。

 何からの物質と反応させて放射性物質を分解したり、 または何か別の物質と反応させて、別の化合物にすれば 放射性物質でなくなると考えてしまうかもしれないが、 そんなことはまったくあり得ない。

 放射性物質であっても化学的な性質は、 放射性物質でない同位体とまったく同じである。 したがって、化学変化をした後でも、 相変わらず放射能を放っている。 例えば、放射性ヨウ素を、カリウムと反応させて、 ヨウ化カリウムにしたとする。ヨウ素という物質は なくなったが、化学物質の中に放射性ヨウ素の 元素が入っており、放射線を放っている。

 ではどうすればよいのか。化学的にではなく 物理的に処理するということになる。物理変化だ。 手っ取り早いのは、先にも書いたように、 除去するという方法。食べ物であれば、よく洗い流す。 体内に入ってしまったものは、排出する。 これが基本。

 吸着させて回収し、まとめてポイするという方法もある。 吸着は化合の一種だと考えている人がいるみたいだが、 間違っている。吸着というのは、フィルダーのような 仕組みでひっかけているだけだと考えると解りやすい。 実際、フィルターで引っ掛ける場合もあるし、 静電気(+と−)で引きあわせて回収するケースもある。
科学的な性質で回収する場合も吸着と呼ぶことがあるが、 この場合ですら、化学変化とはまるで違う。物理変化だ。
福島第一原発で放射能の除去に使用されている機械の 中には、吸着によって放射性物質を一箇所に集合させて 回収する仕組みを使っているものがある。

 一般家庭に入っている浄水器は、放射性物質の吸着能力は 殆ど無い。いや全くない。ただし、活性炭で 除去 吸着 できる放射性物質もある。
これ以上細かく語るときりがないので、 このへんについてはご自身で調査されたい。

 「除去する」とか、「洗い流する」という言葉の 頼りなさから、「解毒する方法があるはずだ」と 信じてやまない人たちがいるが、完全に間違っているので 注意すること。
 故意に雑菌を繁殖させた乳酸菌を服用することで 放射性物質を解毒できると言った人もいるようだが、 絶対にマネをしないよう、気を付けられたい。

 何回でもいいますが、 放射性物質(放射能)は解毒できません。

 外からどんなに物理的な力を加えたとしても、 化学的反応によって形を変えたとしても、 せいぜい、原子核の周りを回る電子の エネルギー準位がチョコっと変わるのが関の山で、 電子雲の中に隠された原子核の崩壊が止むことは 絶対にない。
何日、何十年、何百年という長い月日が経つと、 原子核はすっかり崩壊し、別の物質に変わる。 そうなったとき、はじめて無害な物質に戻ったと 言えるのだが、人間の力によって半減期を短縮することは、 通常我々が住んでいる世界ではありえない。 原子炉や核融合炉の中でなら、多少は可能かもしれないが。

 よくよく注意されたい。 我々が出来る範囲の中で、できることをやり、 納得するしかない。
 この、「納得する」ということが、強い生命力の 何よりの秘訣であり、わずかな放射能に怯えてビクビクしたり、 行政に対してヒステリックになったりしていることのほうが、 心臓や脳、その他神経系に及ぼす害が大きいと心得るべきだ。
このへんについては、また考えてみたい。
2011/07/26

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