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無コンテキスト文化の国、ニッポン

オライリーの「リファクタリング・ウェットウェア」を購入しました。
オライリーといえは、アニマルシリーズが有名ですが、この本の表紙は動物ではありません。ニューロン髄鞘の繋がりを描いたイラストです。
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オライリーは、「SEの時間管理術」や「MIND HACK」など、技術解説書以外の本も出してます。それらは海外の著者による、日本人のノウハウ本とは一味違った視点からのアプローチで解説しており、読みやすく、しかも今までの啓発本ではなかった面白さと納得を味わうことができます。

今回購入した「リファクタリング・ウェットウェア」もその一つです。まだ購入したてで、20ページほどしか目を通してませんが、ここまでに強調されている言葉の一つである「コンテキスト」について一つ思ったことを。

「コンテキスト」とは、「状況」とか「背景」とか「文脈」などと解釈されることが多いようです。ITの世界では、「コンテキストメニュー」とかいって、「右クリック」一つについても、どのような画面の時に、どこで「右クリック」されたかによって表示されるポップアップメニューが異なるといったような、「状況」に応じた動作の違いなどを指したりします。
この本の中では、「コンテキスト」という考え方を、技術達人(我々の間ではしばしば『職人』などという言われ方をすることもある)がとる直感的な行動と絡めて論じています。【標準化】、【均一化】、【可視化】といった文化がIT業界の常識になりつつある今、それに真っ向から反するような説が展開されていきます。【標準化】、【均一化】、【可視化】を叫びながらも、結局最終的には職人の経験と直感に頼っている現状に矛盾を感じていた私の違和感が、あながち間違ったものではなかったことを確認させてくれるものです。バクと、それによって引き起こされる損失を恐れるあまり、ソフトウエアの開発は年々非効率で、柔軟性を欠いたものになりつつあります。可視化に固執するあまり、管理業務が増え、開発自体が滞り、結果的に肝心の開発を第三者に丸投げし、最後は最悪の品質のものが出来てくるといったことは珍しくありません。そしてそれを避けるために、面倒な管理手法がますます増えるといった悪循環が起きています。かつて現場にあったような「モノづくりの楽しさ」や「顧客と共有する発見の楽しさ」はそこなはなく、つまらない仕事と最悪の品質、人材の流出、後継の人材が全く育たない環境がそこにあります。
ちょっと脱線しましたが、「コンテキスト」とは、職人がコンソールをいじったときに得られる前言語的な微妙な感覚を呼び覚まさせる何らかの「状況」ことです。それをもとに全体としてどんな問題が起きているのかをアタマの中で再構成(リファクタリング)し、対処します。

ハイコンテクスト文化(高コンテキスト文化)とは、こうした「状況」をじっくり観察し、感じ取り、考慮に入れることが重要視される文化のことです。「以心伝心」の言葉に代表されるように、日本はハイコンテキスト文化が優位の国であると考えられがちです。事実、どんな分野の職場にも職人と呼ばれる人がいます。しかし現代においてはどうでしょう? かつては、「言わなくても解かっている、だから野暮なことは敢えて言わない」だったのでしょうが、現代では「敢えて言わない」ではなく、「面倒だから言わない。言わなくて良いので何も考えない」という発想が優位のような気がします。欧米は、「解りたい(解ってほしい)ので聞きまくる(説得しまくる)」という文化です。このような文化を、ローコンテキスト文化(低コンテキスト文化)と呼ぶそうですが、私はこの言い方には違和感を覚えます。なぜなら、「解りたい(解ってほしい)ので聞きまくる(説得しまくる)」という発想は、結局のところ、「コンテキストを詳しく把握する」という状況を志向しているので、むしろ【ハイコンテキスト志向型】と呼ぶべきものではないかと思います。本当の低コンテキスト文化とは、最近の日本にみられるような無思考型の文化なのではないかと。


英語の文法には、完了形というのがあります。現在完了は、「過去と接点を持つ現在形」という説明のされ方をします。つまり、現在の状態に至った背景が考慮されているのです。この用法に対応する文法が日本語に見当たらず、学生がこの章の単元で苦労することの原因の一つは、「実は日本は低コンテキスト文化である」ということが関係しているのではないか思います。

「リファクタリング・ウェットウェア」は、目的をもって購入したものではないだけに、一つひとつの言葉が発見に繋がりそうです。色々なことを考えながら、ゆっくり読み進めようと思います。



2010/02/28

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