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竹田青嗣の 『人間の未来』

 竹田青嗣先生の 『人間の未来』 を読みました。
 何か、とても差し迫ったものを感じさせるタイトルですが、内容は、@近代哲学が問題にしてきた 「自由」 の概念の突き詰めと、A行き詰まったかに見える現在の資本主義についての考察です。 

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 『人間の未来』 というと、何か予言めいたものが書かれているのかと思ってしまいますが、 「予言」 というよりは、きわめて広い意味での 「提言」 であり、その基準となるテーマは 「自由」 と 「経済」 です。 

 まず、ホッブズに始まり、ルソー、ヘーゲルと続く、近代における 「自由」 についての考え方を分かり易く解説しています。 このへんは、竹田先生の得意分野なのでしょう。 私はヘーゲルというと、「歴史の狡智」という概念が先にアタマに浮かんでしまい、「自由の相互承認」という考えは、ヘーゲルの思想の中でもオマケのようなものだと思ってしまうのですが、竹田先生のヘーゲルに対するこだわりはすごいものがあります。 「そこまで深読みするか」と思ってしまうくらい。 ヘーゲル云々は別として、この「自由の相互承認」という考え方は、個々人同士の関係だけではなく、国際関係を考える上でも大切だと感じました。 
 続いて 「経済」 に対する考え方は、社会主義の登場と社会主義の予測に反した発展を見せた資本主義の経緯について解説した後、結局私たちは資本主義を捨てるわけにはゆかず、これをうまく制御していくことが大切なのだと説いています。環境問題にまで言及していますが、具体的な経済対策にまでは触れてません。 それは哲学者の仕事ではないのでしょう。 ベルンシュタインが旗を振って、19世紀の終わりに修正社会主義という考え方が生まれましたが、1世紀余り経って、資本主義も、そうした修正をするべき段階に来たのかもしれません。 

 私たちは歴史の最末端を生き、過去の歴史の試行錯誤を大観できる位置にいるかのように錯覚しがちですが、実は、 「試行錯誤」 の真っ只中にいるのだということを感じさせてくれる本。 歴史は進行中なのです。 サブプライムに揺れる私たちも、試行錯誤の失敗者として100年後の歴史の教科書に載ることになるのでしょうか。 

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    竹田青嗣先生

 竹田青嗣さんというと、永井均さんとの仲の悪さでよく知られていたりしますが、今度は永井さんの本も読んでみようと思います。

2009/04/26

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